大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和29年(行)4号 判決 1967年4月27日

原告 小布勢耕地整理組合

被告 新潟県知事

訴訟代理人 板井俊雄 外八名

小布勢土地改良区

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告が耕地整理法に基き大正一五年五月に設立された耕地整理組合で、以来同法第一条に掲げる事業を行つてきたが、土地改良法施行法第二条第二項により昭和二七年八月三日解散し、清算法人として存続していること、被告が昭和二九年一月二七日原告に対し施行法第一二条第二項により本件施設を別紙記載の条件で補助参加人に移管することを命じ(本件移管命令)、同命令が同月三一日原告に到達したことは当事者間に争いがない。

二、先ず被告及び補助参加人の本案前の抗弁について判断する。原告が本訴提起につき総会の表決を経なかつたことは当事者間に争いがないが、原告は、清算手続に入つた以上原告には耕地整理法第六一条、規約第一〇条の適用はなく、清算人は本訴提起につき総会の表決を要しない旨主張する。しかし、法人が清算手続に入つた場合、理事(原告では組合長)が職務権限を失い、清算人がこれに代ることになるにとどまり、総会その他の機関についてはなんら変更を生じないものであるから、清算の前後を問わず当該法人を規制する法令、規約等はすべて適用されるものと解すべきである。よつて、原告の右主張は理由がない。

しかし、<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。原告の区域内においても自創法による農地買収及び売渡処分が行われたため、原告の組合員に変動を生ずることになつたが、一部の土地をめぐつて買収及び売渡処分の効力について紛争が生じたり、売渡による登記手続が未了な土地や登記簿上所有名義が移転しながら土地台帳及び更正図の地番の上ではいぜん被買収者の所有となつている土地があり、また、非農地を買収した疑いがあるなど混乱状態が生じていた。総会招集権者である清算人の佐々木高は、昭和二九年一月一二日原告の解散届提出のため県の強い指示によりやむなく疑義があつたにもかかわらず新旧所有者と認められる者に総会招集通知を発し、同月一四日総会を開催したものの、右のような混乱状態のため適式の総会招集の前提としての組合員資格の正確な確認は極めて困難であると判断していた。加えて、組合員が二派にわかれて激しく対立し、現に昭和二九年一月一四日招集の総会も右対立のため結局流会に等しい状態で散会する程であつた。かかる事態の中で同月二七日本件移管命令が発せられたが、佐々本高はこれに対する訴提起期間である施行法第四項所定の三〇日の期間内に、組合員資格を正確に確認し、組合員の対立を和らげ、正常な議事運営ができる総会の開催に持込むことは困難であると判断した。そこで同人は、後記のとおり本件施設移管につき原告と補助参加人との協議が不調に終つており、以前から本件移管命令が発せられることが予想されていたため、既に同年一月一三日の評議員会で、移管命令が発せられた場合にはその取消訴訟を提起することにつき承認を得ていたので、清算人の専決処分として本訴提起に及んだ。以上の事実が認められる。このような事実関係の下では、総会の表決を経ることなく耕地整理法第六三条により清算人が専決処分として本訴を提起したからといつて、違法とまでいうには当らず、本訴は訴訟行為をなすにつき必要な授権を欠くものということはできない。

もつとも、原告が本訴提起後同法第六三条による総会の承認を経ていないことは当事者間に争いがないが、清算人の前記専決処分が違法とは認められない以上、同条の事後承認の有無は本訴提起の効力には影響を及ぼさないものと解すべきである。

よつて、被告の本案前の抗弁は理由がない。

三、そこで本案について判断すると、被告及び補助参加人は、本件施設に関する権利義務は補助参加人小布勢土地改良区設立により当然補助参加人に承継される旨主張する。しかし施行法第五条により耕地整理組合が土地改良区に組織替した場合には被告主張のような権利義務に関する当然承継ということがあり得ても、本件のように、清算法人として耕地整理組合が存続し、これと併立して後記のように土地改良区である補助参加人が設立された場合にあつては、そのような関係は生じないものと解するのが相当であるから、被告の右主張は採用しない。

次に、<証拠省略>の結果によれば、開墾、溜池築造、灌漑排水設備等を目的とする規約第一条所定の原告の耕地整理事業の工事は、昭和一一年三月本件施設完成と共に事実上完了し、これに伴う換地処分のみが未了のまま(本件施設の完成及び換地処分未了の事実は当事者間に争いがない。)原告は解散にいたつたこと、原告と地区を同じくして補助参加人小布勢土地改良区が設立され(昭和二八年六月一三日認可)、補助参加人は原告に対し施行法第一二条第一項により本件施設移管につき協議を申入れたが、結局右協議は不調に終つたこと、そこで、前記のとおり、被告が本件移管命令を発するにいたつたことが認められる。以上の事実によれば、本件施設を含め換地処分の前提となるべき工事は事実上完了していることが認められ、殊に、原告の事業のうち道路、溝渠、溜池の変更廃置、灌漑排水に関する設備及び工事は本件施設完成により事業完了と同視して差支えない。一方換地は工事完成後の土地の形状の変更に伴う土地の合理的な配分のための手続に過ぎないから、換地処分の主体と本件施設の管理主体が別個であつても必ずしも不都合とはいえない。むしろ清算法人に過ぎない原告に、その義務である換地と直接にはかかわりのない本件施設の管理を委ねることは耕地整理組合を解消させ、これに代えて土地改良区を設立しようとした法の趣旨にもそわないものである。よつて、このような事情の下では、施行法第一二条第二項により、被告が原告に対し本件施設の移管を命じたことに違法はない。

四、以上の次第であるから、原告の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井省己 松野嘉貞 八丹義人)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例